ワイン専門誌で「クールクライメイト(冷涼気候)」という言葉を目にすることがあるだろう。冷涼な気候ということで、高い酸を保持していることは想像がつく。だが、同じ冷涼な気候といっても、フランスやドイツのような旧世界と、ニュージーランドやチリのような新世界とでは、スタイルが大きく違ってくる。
同じ「酸が高い」という土台の上に、旧世界は繊細さと緊張感を、新世界は酸と豊かな果実味の両立を乗せてくる。クールクライメイトを「産地の気候」だけでなく「旧世界と新世界、どちらの解釈か」まで含めて理解すると、ワイン選びの解像度が一段上がる。
クールクライメイトとは
クールクライメイトとは、ブドウの生育期(4月〜10月ごろ)の平均気温(GST:Growing Season Temperature)が、その品種の適温域の中でも低いレンジに収まる冷涼な気候を指す。これは同じ「冷涼」でも、ピノ・ノワールにとっての冷涼と、カベルネ・ソーヴィニヨンにとっての冷涼は違う温度帯を指していることを意味する。
この違いを具体的に見てみると、たとえばピノ・ノワールの適温域は生育期平均気温にしておよそ14〜16℃と、5大品種の中でも最も冷涼寄りで、適温域自体が狭い。一方、カベルネ・ソーヴィニヨンの適温域はおよそ16.8〜20.2℃と、ピノ・ノワールよりかなり温暖な側にずれ込む。
気温だけでなく、日較差(昼夜の寒暖差)の大きさもクールクライメイトを語るうえで欠かせない。日中はしっかり日照を受けて光合成が進む一方、夜間の冷え込みで呼吸によるブドウ内の酸の消耗が抑えられる。この昼夜のコントラストが、酸をしっかり残したまま香りの豊かさも獲得するという、クールクライメイトならではの特徴を生む土台になっている。
緯度の高いヨーロッパの伝統産地だけでなく、海からの冷涼な風や寒流の影響を受ける沿岸部、標高の高い山岳地帯も、緯度に関係なくクールクライメイトに分類される。
ブドウおよびワインへの影響
冷涼な気候は糖度の上昇をゆっくりにする一方、酸をしっかり保持したまま収穫を迎えられる環境をつくる。
旧世界のクールクライメイト
旧世界のクールクライメイトは、酸の高さと引き換えに、控えめなアルコール度数と繊細な香りを獲得するエレガントなスタイルが基本だ。モーゼルやシャンパーニュのように、完熟のぎりぎりのラインを狙って収穫することが多く、糖度と酸のバランスは繊細そのもの。アルコール度数は12%前後に収まることも多く、果実味よりもミネラル感や酸の緊張感が主役になりやすい。
赤ワインの場合も、色合いはやや淡め、タンニンは滑らかで丸みを帯びる傾向がある。ブルゴーニュのピノ・ノワールがクールクライメイトの代表として語られるのは、このタンニン構造と品種の個性が相性がいいからだ。ただし冷涼すぎる年は、どの品種も完熟不足のリスクを抱えている。
新世界のクールクライメイト
一方、新世界のクールクライメイトは、高い酸と豊かな果実味を両立させるスタイルが持ち味だ。ニュージーランドのセントラル・オタゴやチリのカサブランカ・ヴァレーは、緯度や標高の条件は冷涼でも、日照時間や日射量そのものは旧世界より豊富なことが多い。そのため糖度もしっかり上がり、果実の凝縮感を保ったまま酸の高さも両立するという、いいとこ取りのスタイルが生まれやすい。
新世界のピノ・ノワールが「果実味たっぷりなのに酸もある」と評されることが多いのは、この日照条件の違いが理由だ。旧世界が「引き算」で繊細さを研ぎ澄ませるとすれば、新世界は「足し算」で果実味と酸のバランスを取りにいく。
クールクライメイトの産地
産地の成因は大きく「高緯度」「海洋性・寒流の影響」「標高」の3パターンに分けられるが、旧世界と新世界では代表的な成因の組み合わせ方が異なる。
旧世界の代表産地
ドイツのモーゼルとフランスのシャンパーニュは、高緯度によるクールクライメイトの代表格だ。モーゼルは急斜面の畑と穏やかな日照でリースリングを育て、糖度と酸のバランスに優れた繊細な白を生む。シャンパーニュも生育期の平均気温が低く、ベースワインの高い酸がスパークリングワインの骨格を支えている。ブルゴーニュ最北端のシャブリも同様の理由で冷涼な産地に数えられ、ミネラル感の強いシャルドネで知られる。スペイン北西部のリアス・バイシャスは、大西洋に面した海洋性の冷涼産地で、アルバリーニョという品種の個性を最大限に引き出している。
新世界の代表産地
新世界では、海洋性・寒流の影響を受ける産地が目立つ。ニュージーランドのセントラル・オタゴは、内陸部にありながら南半球でも指折りの高緯度に位置し、昼夜の寒暖差の大きさでピノ・ノワールの銘醸地として評価されている。チリの海岸部、カサブランカ・ヴァレーやサン・アントニオも太平洋の寒流(フンボルト海流)の影響を受ける冷涼産地で、ソーヴィニヨン・ブランの好適地として知られる。アルゼンチンのパタゴニアは、大陸性気候による冷涼さとアンデスからの強風が特徴で、繊細なピノ・ノワールの新たな適地として注目を集めている。
標高によるクールクライメイトも新世界に多い。アメリカ・オレゴンのウィラメット・ヴァレーは、ブルゴーニュに似た土壌と気候から「世界3大ピノ・ノワール産地」の一つに数えられる。オーストラリアのタスマニアも、本土より南に位置する冷涼な離島として、繊細なスタイルのピノ・ノワールやスパークリングワインを育てている。中国雲南省も見逃せない。雲南省自体は緯度で見れば亜熱帯に属するが、ヒマラヤ山脈の麓、標高2,200〜2,600メートルに開かれた畑は真夏でも気温が30℃を超えることがめったにないという冷涼な環境だ。LVMHが手がけるブランド「Ao Yun(アオ・ユン)」がこの地でカベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドースタイルの赤を造り、著名評論家から高い評価を受けている。緯度に頼らず標高だけで冷涼さを確保する、新世界らしい産地開拓の一例と言える。
クールクライメイト産地のワイン紹介

オーストラリアの南オーストラリア州・アデレードヒルズもクールクライメイトの産地だ。
こちらは旧世界的なスタイルのワインだ。
よくある質問
Q. クールクライメイトとは何か?
A. クールクライメイトとは、ブドウの生育期(4月〜10月ごろ)の平均気温(GST:Growing Season Temperature)が、その品種の適温域の中でも低いレンジに収まる冷涼な気候のことだ。気温のラインは品種ごとに異なり、たとえばピノ・ノワールは14〜16℃、カベルネ・ソーヴィニヨンは16.8〜20.2℃が適温域とされている。
Q. クールクライメイトのワインは酸が高いのはなぜか?
A. 冷涼な気候ではブドウの糖度上昇がゆっくり進み、酸をしっかり保持したまま収穫を迎えられるからだ。さらに昼夜の寒暖差(日較差)が大きい産地では、夜間の冷え込みで呼吸によるリンゴ酸の消耗が抑えられ、酸がより残りやすくなる。
Q. 旧世界と新世界のクールクライメイトワインは何が違うのか?
A. 旧世界(フランス・ドイツなど)は、控えめなアルコール度数とミネラル感を軸にしたエレガントなスタイルが基本になる。一方、新世界(ニュージーランド・チリなど)は日照時間が豊富な産地が多く、高い酸と果実の凝縮感を両立させたスタイルになりやすい。
Q. クールクライメイトの代表的な産地はどこか?
A. 旧世界ではドイツのモーゼル、フランスのシャンパーニュとシャブリ、スペインのリアス・バイシャスが代表格だ。新世界ではニュージーランドのセントラル・オタゴ、チリのカサブランカ・ヴァレー、アルゼンチンのパタゴニア、アメリカのオレゴン、オーストラリアのタスマニア、そして標高2,200〜2,600メートルの畑を持つ中国雲南省などが挙げられる。
Q. クールクライメイトに向いているブドウ品種は?
A. 冷涼な気候への適応度は品種ごとに違う。ピノ・ノワールは適温域が14〜16℃と最も冷涼寄りで、シャルドネとソーヴィニヨン・ブランは15〜17℃のIntermediate帯に位置づけられる。カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーズはより温暖な気候を必要とする品種だ。
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